2014-03-01 [駄文]
「また負けた!」
コントローラーを投げ出し床に大の字に倒れこむ。テレビ画面にはlostの文字が浮かんでいた。
「クロス、音ゲーは得意なのにな」
投げ出されたコントローラーを拾い上げスタートボタンを押す。クロスはむすっとしたまま「格闘ゲームだって得意だ」とゆっくり起き上がった。
隣でコントローラーを操作する神風を見ながら、ふと部屋が薄暗いことに気づいた。集中しているとなかなか気づかないもので、それほど時間が経っただろうかと不思議に思う。
立ち上がり部屋の電気をつけ時計を見るが、さほど時間は経っておらずまだ昼と夕方間、というぐらいの時間帯だ。
「そうだ、今日雨が降るんだっけ」
天気予報によれば夕方から雨が降り徐々に強まる、という話だった。神風はゲームを続けながら、
「え、そうなのか」
と声のトーンが低くなる。
「なんだテレビ見なかったのか……まだ降ってないけど、帰るか?」
「……いいよ、泊まる」
クロスと一緒にいたいから、というよりはゲームを途中で止めるのと、万が一雨に降られたら嫌だという理由だろう。クロスは苦笑いをした。
泊まるなら夕飯ちゃんと作ろう、と神風の邪魔をしないようにキッチンに向かう。冷蔵庫には何があっただろうか、適当に繕っても構わないだろう。急な宿泊なんだし……。と思ったのだが、冷蔵庫はがらんとしていてまるで夜逃げの後のように何も残っていなかった。
「……お前はおいてけぼりになったんだな」
ぽつんと残った牛乳を見てため息をついた。流石に牛乳だけでおかずは作れない。最後の希望だと戸棚を開けるとそこにはカップラーメン、一つだけ置かれていた。
重い足取りで部屋へ戻ると、神風は既にステージをクリアして休憩していた。
「さっすが神風先輩!頼りになる!」
「はいはい、で夕飯は」
何かあったのか、と催促され、クロスはしょうがなく残っていたカップラーメンを差し出した。
「これ一つしかなくって、今から買ってこようかとも思ったんだけど……」
「金もないのか?」
「そうじゃなくて、雨降ったら嫌だし」
雨の中、神風を一人にするのが嫌なのだろう。神風は呆れたようにクロスの頭を叩いた。
「そんなことより腹が減る方が嫌だ。買い物なんてそう時間もかかんねーだろ、早く行ってこいよ」
でも、と口を濁らせたクロスは最終的に神風の威圧に負け、買い物に出掛けた。その直後、待ってましたと言わんばかりに夕立が降り始めたのだった。
ついてないやつ。自分から行かせたものの雨の中買い物をさせたことに申し訳なくなる。そしていつも二人で過ごしている部屋がやけに広く感じた。
ここに始めてきたときから、もうどのぐらい経ったっけ。そのときはまだ、付き合ってすらいなかった。
次第に雨は強くなり、不愉快な音まで聞こえてきた。雷だ。こんなに強くなるなら早く帰るべきだっただろうか。迷惑をかけてしまっただろうか。
神風は不愉快な音をかきけそうとカーテンを閉めて適当に音楽をかけた。ゆっくりとしたジャズが流れ始める。これでは音をかきけすことはできない。
だが、布団にもぐりこみ目をつぶると不思議と安心するとこができた。普段寝ている布団、普段聞いている曲。そうか、こんな曲が好きなんだ。
「遅くなった、ただいま……」
傘をさしていたはずが、ずぶ濡れのクロスがくしゃみをしながら戸を開けた。だがそこは音楽が流れているだけで神風の姿が見当たらない。
「神風?」
辺りを見回すと布団が盛り上がっている。そっと捲ると寝息をたてた神風。どうやらそのまま眠ってしまったようだ。
起こすのも悪いだろう。クロスは足音をたてないようにそっと部屋を後にした。
カーテンを開くと、星が点々と輝いていた。天気はすっかりよくなったようで、丸い月が街を見下ろしていた。
「起こしてくれればよかったのに」
キッチンでカレーの味見をしていたクロスに、むすっとしながら神風は言った。
「こんな時間になったし」
「本降りだったし今起こすよりあとで起こした方がいいかと思って……そしたら忘れてた」
バカだな。そう言って神風もひょいとカレーの味見をする。少し甘めなのは林檎が入っているからだろう。この隠し味は二人にとって定番だった。
「あれ、クロス」
カレーの匂いばかりで気づかなかったが、クロスからはいい石鹸の匂いがした。シャワーに入ったのかと問いかける前に
「あぁ、結構濡れてさ、先に入ったんだ、ごめん」
「なんで謝るんだよ」
一緒に入るつもりはなかったし毎回共にしているわけではない。それとも、入ってほしいと思われていたのか……。
自分が素直になれないことは少なからず自覚はしている。だが露骨に甘えても気持ち悪いだけだろう。(同時に、そこまで甘えたいとも思わないのだ)
テレビを見ながら夕飯を食べる。まだ起きっぱなしになっているゲームをみて
「どこまで進んだ?」
「進めてない」
「あのボスの倒し方なんだけどコツとかないの?」
「適当」
など生返事をしていたが、
「あとでデザートにさくらんぼゼリーあるから」
という言葉にだけはピクリと反応し、何で言わなかったんだとカレーをスプーンで丸飲みしようとするが、喉につっかえてしまった。
「ゼリーは逃げないぞ」
「う、うるせぇバカ」
クロスが笑うと、足に蹴りを喰らった。自業自得だ。痛みを抑えながらふと、
「なぁ、雨大丈夫だったか?寝れたならそんなでもなかったのか」
と言われ、神風も首を傾げる。
安眠できたのは、あの匂いのお陰なんだろうか。安堵し睡魔が襲ってきたのは、納得できそうであまり納得したくなかった。
――それだけ、クロスのそばにいることが心地よいのだろうか。そう思うと途端に体が火照ってくる。よくもまぁ恥ずかしいことが思い浮かぶものだ。
赤くなった顔を悟られないよう、逃げるように部屋を出ると危うく転びそうになり壁に頭をぶつけた。
「なにやってんだよ」
クロスの笑い声が背中から聞こえる。このやろう。冷蔵庫からゼリーを二つ、スプーンを一つだけ取りだし神風は決意した。
……後で仕返ししてやる。
コントローラーを投げ出し床に大の字に倒れこむ。テレビ画面にはlostの文字が浮かんでいた。
「クロス、音ゲーは得意なのにな」
投げ出されたコントローラーを拾い上げスタートボタンを押す。クロスはむすっとしたまま「格闘ゲームだって得意だ」とゆっくり起き上がった。
隣でコントローラーを操作する神風を見ながら、ふと部屋が薄暗いことに気づいた。集中しているとなかなか気づかないもので、それほど時間が経っただろうかと不思議に思う。
立ち上がり部屋の電気をつけ時計を見るが、さほど時間は経っておらずまだ昼と夕方間、というぐらいの時間帯だ。
「そうだ、今日雨が降るんだっけ」
天気予報によれば夕方から雨が降り徐々に強まる、という話だった。神風はゲームを続けながら、
「え、そうなのか」
と声のトーンが低くなる。
「なんだテレビ見なかったのか……まだ降ってないけど、帰るか?」
「……いいよ、泊まる」
クロスと一緒にいたいから、というよりはゲームを途中で止めるのと、万が一雨に降られたら嫌だという理由だろう。クロスは苦笑いをした。
泊まるなら夕飯ちゃんと作ろう、と神風の邪魔をしないようにキッチンに向かう。冷蔵庫には何があっただろうか、適当に繕っても構わないだろう。急な宿泊なんだし……。と思ったのだが、冷蔵庫はがらんとしていてまるで夜逃げの後のように何も残っていなかった。
「……お前はおいてけぼりになったんだな」
ぽつんと残った牛乳を見てため息をついた。流石に牛乳だけでおかずは作れない。最後の希望だと戸棚を開けるとそこにはカップラーメン、一つだけ置かれていた。
重い足取りで部屋へ戻ると、神風は既にステージをクリアして休憩していた。
「さっすが神風先輩!頼りになる!」
「はいはい、で夕飯は」
何かあったのか、と催促され、クロスはしょうがなく残っていたカップラーメンを差し出した。
「これ一つしかなくって、今から買ってこようかとも思ったんだけど……」
「金もないのか?」
「そうじゃなくて、雨降ったら嫌だし」
雨の中、神風を一人にするのが嫌なのだろう。神風は呆れたようにクロスの頭を叩いた。
「そんなことより腹が減る方が嫌だ。買い物なんてそう時間もかかんねーだろ、早く行ってこいよ」
でも、と口を濁らせたクロスは最終的に神風の威圧に負け、買い物に出掛けた。その直後、待ってましたと言わんばかりに夕立が降り始めたのだった。
ついてないやつ。自分から行かせたものの雨の中買い物をさせたことに申し訳なくなる。そしていつも二人で過ごしている部屋がやけに広く感じた。
ここに始めてきたときから、もうどのぐらい経ったっけ。そのときはまだ、付き合ってすらいなかった。
次第に雨は強くなり、不愉快な音まで聞こえてきた。雷だ。こんなに強くなるなら早く帰るべきだっただろうか。迷惑をかけてしまっただろうか。
神風は不愉快な音をかきけそうとカーテンを閉めて適当に音楽をかけた。ゆっくりとしたジャズが流れ始める。これでは音をかきけすことはできない。
だが、布団にもぐりこみ目をつぶると不思議と安心するとこができた。普段寝ている布団、普段聞いている曲。そうか、こんな曲が好きなんだ。
「遅くなった、ただいま……」
傘をさしていたはずが、ずぶ濡れのクロスがくしゃみをしながら戸を開けた。だがそこは音楽が流れているだけで神風の姿が見当たらない。
「神風?」
辺りを見回すと布団が盛り上がっている。そっと捲ると寝息をたてた神風。どうやらそのまま眠ってしまったようだ。
起こすのも悪いだろう。クロスは足音をたてないようにそっと部屋を後にした。
カーテンを開くと、星が点々と輝いていた。天気はすっかりよくなったようで、丸い月が街を見下ろしていた。
「起こしてくれればよかったのに」
キッチンでカレーの味見をしていたクロスに、むすっとしながら神風は言った。
「こんな時間になったし」
「本降りだったし今起こすよりあとで起こした方がいいかと思って……そしたら忘れてた」
バカだな。そう言って神風もひょいとカレーの味見をする。少し甘めなのは林檎が入っているからだろう。この隠し味は二人にとって定番だった。
「あれ、クロス」
カレーの匂いばかりで気づかなかったが、クロスからはいい石鹸の匂いがした。シャワーに入ったのかと問いかける前に
「あぁ、結構濡れてさ、先に入ったんだ、ごめん」
「なんで謝るんだよ」
一緒に入るつもりはなかったし毎回共にしているわけではない。それとも、入ってほしいと思われていたのか……。
自分が素直になれないことは少なからず自覚はしている。だが露骨に甘えても気持ち悪いだけだろう。(同時に、そこまで甘えたいとも思わないのだ)
テレビを見ながら夕飯を食べる。まだ起きっぱなしになっているゲームをみて
「どこまで進んだ?」
「進めてない」
「あのボスの倒し方なんだけどコツとかないの?」
「適当」
など生返事をしていたが、
「あとでデザートにさくらんぼゼリーあるから」
という言葉にだけはピクリと反応し、何で言わなかったんだとカレーをスプーンで丸飲みしようとするが、喉につっかえてしまった。
「ゼリーは逃げないぞ」
「う、うるせぇバカ」
クロスが笑うと、足に蹴りを喰らった。自業自得だ。痛みを抑えながらふと、
「なぁ、雨大丈夫だったか?寝れたならそんなでもなかったのか」
と言われ、神風も首を傾げる。
安眠できたのは、あの匂いのお陰なんだろうか。安堵し睡魔が襲ってきたのは、納得できそうであまり納得したくなかった。
――それだけ、クロスのそばにいることが心地よいのだろうか。そう思うと途端に体が火照ってくる。よくもまぁ恥ずかしいことが思い浮かぶものだ。
赤くなった顔を悟られないよう、逃げるように部屋を出ると危うく転びそうになり壁に頭をぶつけた。
「なにやってんだよ」
クロスの笑い声が背中から聞こえる。このやろう。冷蔵庫からゼリーを二つ、スプーンを一つだけ取りだし神風は決意した。
……後で仕返ししてやる。