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家族に贈る七題 [駄文]

2.慌しい朝も欠かさず

 欠伸をしながらたどたどしい足取りで階段を下りると、危うく滑りかけて停滞していた眠気がどこかへ吹き飛んでいった。
 幸先が悪い、など思いながらリビングへ向かうと、寝間着姿のリフとフウカが軍手をしながらじょうろ片手に花壇の手入れをしていた。
「朝から性が出るッスね」
 ポケットに手を突っ込んだまま庭へ出る。まだ明け方、段々と暖かくなってきたもののまだ吹く風は寒く、思わず身を縮ませた。
「織色サンの花壇をワタシたチのせいで枯らシたくありマせんから」
 昨晩、織色が熱を出し花壇の世話をすることになったのだった。クラックはすっかり忘れていた。
 というのも熱を出した織色の看病でてんやわんやしていたせいだ。リフが大分慌てていてクラックがこき使われっぱなしだったのである。――こき使われているのはいつのものことなのだが。
 ぶち、と雑草を抜くと袋に詰め、水をあげる。それをしばらく眺めていたが我慢できなくなり、クラックは庭から離れた。
 どうせ手伝いもしていなかったし眺めているだけでは邪魔だとあしらわれるだろう。それも時間の問題だったし……と自分に言い聞かせる。
 1時間かからず二人は花壇の手入れを終えた。手入ればかりに時間をかけていられないのだ。休日とはいえ買い出し、家の掃除、やることはまだまだ残っているのだ。リフは首に巻いていたタオルで額の汗を拭ってそれを洗濯機に放り投げた。あぁ、洗濯物も溜まっていたんだっけ。
「お疲れ様ッス」
 リビングへ戻ると、呑気に座っているクラックが。一人のんびりしていい御身分ですね。なんて皮肉を言いかけて口ごもる。
 テーブルの上にはフレンチトーストとハチミツレモンのホットドリンクが三人分並べられていた。
「簡単な物ッスけど、一通りやっておきましたッス」
「今日の当番、ワタシですケど……」
「いいッスよ、リフさん大変だったんスから……飲まないと調子出ないじゃないスか、これ」
 そう言ってホットドリンクを差し出す。フウカも嬉しそうに自分のマグカップに注がれたホットドリンクを口にした。
 確かに、毎朝の日課になるほど飲んでいるし飲まないと不思議と気合の入らない、そんな気はしていたが。それよりもクラックがそれを知っていたことに驚いた。
「ストーカーですカ」
「……はぁ」
 その意味を理解できず、クラックは苦笑いをした。それもそうだとリフはすとんとクラックの隣に座った。
 飲まないと気合が入らない。それもあるけど。リフはちらとクラックを見る。フレンチトーストに乗せたクリームが口の端についていてやれやれとあきれた。
 あなたの隣でこうしてゆっくりできないと、一日が始まった気がしないんですよ。
 そう、言いたかったのだが口にすることはできず、冷めないうちにフレンチトーストにぱくついた。
 照れ隠しも程々に。フウカはお互い同じ場所にクリームをつけた二人を眺めて、ほほ笑んだ。
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