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家族に贈る七題 [駄文]

1.スイートホームに最高の待ち人 大きな袋を引き下げて、クラックはため息をついた。空はすっかり暗くなっていて、満月が堂々と夜空のオンステージを独り占めしていた。
 こんなに遅くなって、きっと心配――いや、こっぴどく怒られるだろう。遅くなったのはクラックではなく、後ろで意気揚々とスキップしているフウカのせいなのだが。
 フウカが野良猫と戯れているうちに姿を消し、探していたらこんな遅くなってしまったのだ。
「まぁ、無事で何よりッスけどね」
 万が一なにかあったら、怒られるどころでは済まないだろう。それを知っていてクラックはフウカを血眼になって捜したのだ。(流石にそこまで必死ではなかったかもしれないが)
 家の前でぴたりと立ち止まる。2階の電気はついておらず、玄関のライトがちかちかと点いては消えを繰り返していた。
 まるで貧乏ゆすりのように、苛立っているように見えるほど、クラックはリフの表情が読み取れていた。
 それを察しないフウカは早く入ろう、とドアを開けた。ドアはいとも簡単にあっさりと開く。緊張感など持ち合わせていない。
「随分、遅カったですネ」
 足音を聞きつけたのかリフは玄関前で仁王立ちしていた。少しサイズの大きいスリッパは片方脱げかけている。
「あぁ、いや……」
 ここで理由を言ったところで言い訳にしか思われないだろう。クラックは黙って玄関のドアを閉めると同じぐらいの目線になったリフを伏目がちに見た。
 フウカは既にリフを通り過ぎ、リビングにあるであろう夕食を見て尻尾でも振っているのだろう。ぱたぱたと軽快な足音が聞こえた。
「何も言わナいんですね」
「もう疲れましたし、早くしないと夕飯冷めるッスから」
 靴を脱いで玄関を上がると、すっと手を差し伸べられた。
「荷物」
「え、いいッスよ」
「いいデすから」
 奪い取るようにクラックから荷物を預かると、わざと大きい音を立てながらキッチンへ向かう。
 やっぱり怒ってるんじゃないスか。と思うと、壁から少しだけ顔を出し、
「おかエりなさい」
 と小声で呟いて、またキッチンへ戻ってしまった。
 数秒、口を開けたまま立ち尽くしてしまったが、またリフに怒られるんじゃないかという心配が頭を過り、急いでリビングへ向かう。
 おかえり、か。クラックはぼけっとしたままその言葉を噛みしめた。――ここが、自分の帰る家。
 嬉しくなってちょっとニヤけていると、やっぱりリフに気持ち悪いといわれてしまったのだが、それも悪くないなどと、思ってしまうのだった。

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