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家族に贈る七題 [駄文]

3.愛しさ余って気苦労

 嗚呼もうこの人は! クラックはやっと見つけたベンチに腰を掛けた。
 目の前にあるのはたい焼き屋さん。その前でリフは一定の場所をぐるぐる回り歩いていた。
「カスタード……でもチョコも好きデすし……苺も捨てがタいです」
 もう5分ほど経っただろうか。クラックは既に買ったたい焼きを冷めないうちに食べ始めた。
 買い物の途中もそうだ。何かにつけてフウカサン、織色サン、と口に出す。別に嫉妬しているわけではないということは言っておこう。クラックはため息をついた。
 リフは二人のことが大好きなのである。LOVEではなくLIKEの意味で愛しているのである。
「だからってこの悩みはおかしいッスよ」
 何をあげれば喜んでくれるか、何を求めているのか過剰に考えてしまうらしく、その結果一人くだらないことで悩んでしまうのだ。(くだらないなどと口が裂けても言えない。言ったらどうなるか、恐ろしいことになるのは確かだ)
「おかしクなんかないです」
 むすっと頬を膨らませ、またメニューに目を移す。このままでは日が暮れてしまう。クラックは立ち上がりリフを押しのけ店員に、
「すいません、カスタードとチョコと苺と小倉と抹茶と生クリームとコーヒーくださいッス」
 と告げた。
「何シてるんですか!」
「早く帰らないと二人が心配しますし、きっとどれもおいしく食べるッスから」
 怒られるのはわかっていたが、意地でも納得させなければ。リフは反論しようとするが二人を待たせるのが嫌なのか、紙袋を受け取るとさっさと歩き始めた。
 物わかりが早くて助かった。クラックはリフの一歩後ろを歩く。少し早足のリフといつもより少しだけ早く歩くクラック。
「リフさんは本当に二人のことが好きッスねぇ」
 呆れるというよりは再確認のようにぽつりと呟くと、リフは一瞬だけ振り向いて目が合うとまた視線を前に戻した。
 怒られるのかと思うもそういうわけではないようで、機嫌がいいのか悪いのかよくわからない。表情が読めないのはいつものことだが。
 そうか、自分も同じように気苦労しているのかもしれない。クラックが笑うと、リフに怪訝な目で見られてしまった。
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