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家族に贈る七題 [駄文]

6.通りすがりの倦怠期 倦怠期、という言葉をご存じだろうか。
 簡単に説明すると、カップルや夫婦の熱が冷めお互いに距離を置いてしまう。そんな時期だ。
「あら、倦怠期?」
 リビングで雑誌を読んでいるリフに、織色が問いかけた。隣に座るとリフは少しだけ視線を向けるが、すぐに雑誌の方に向けてしまった。
 珍しい、織色に対して無言になるなど滅多にないことだ。だが織色は顔色一つ変えることなく、持ってきた紅茶をすすった。
 窓の外から雨がさあさあと降っている音が聞こえる。滴る滴がぽたりとじょうろの中にもぐりこんで中を潤している。天気は晴れ、と告げていたのだが、どうやら通り雨のようだ。
 先ほどクラックをすれ違ったのだが、様子を見る限り喧嘩をしたわけではないようだが……。
 もしも癇に障るようなことがあったなら、リフは愚痴を溢すだろう。変なところで素直でわかりやすいのだ。
 ……よく見ると、リフは首からネックレスを下げていた。なるほど、織色は漸く気づいたのか、それをみてくすりと笑った。リフは少し焦ったように
「どうシました……?」
 と問いかけた。
「いいえ、なんでもないのよ」
 いつの間にか雨は止んでいた。屋根から垂れた滴が満たされたじょうろに零れ、雨音が響く。
「お待たせしましたッス」
 小走りでクラックが二人の前に現れた。鞄を下げ、帽子をかぶり準備万端で、いかにもデートといわんばかりのお洒落をしていた。
 やっぱり、リフがそわそわしていたのもなんとなく感づいていた。普段の姿とは打って変わってたどたどしいリフをみると、逆倦怠期、という言葉が浮かんだ。
「いってらっしゃい、気をつけてね」
「はい、いってキます」
 雑誌を閉じ、織色に一礼するとそそくさと玄関まで向かう。たまにはああやって夫婦水入らずで出かけるのも悪くはないだろう。ただ、結局いつも通りクラックが怒られることになるんだろうけれども。
 仲がいいような悪いような、二人の複雑で奇妙な関係は、これから先ずっと続くことになるのだろう。
 織色はそんな二人を見送ってから庭の手入れをしようと窓を目いっぱいに開けてうんと伸びをした。太陽は雲の隙間から眩い光を放っていた。
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